一号蔵顛末 -中篇-

在りし日の一号蔵3

蔵の入り口から見えていたのは、こんな光景でした。
大きな木桶、向こう側には、裏手の入り口から差し込む光。

しかしもう、二度と見られなくなってしまいました。

入り口まで積もった雪と瓦礫が押し寄せ、一体何がどうなっているのかさっぱりわかりませんでした。

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もちろん入ることなど出来ません。外に回っても同じ事でした。
言葉無く、険しい表情で近所の皆さんが立っていました。
申し訳ありません、ご迷惑をお掛けしております、とお詫びした声も震え、そしてそれに応えてくれる方もいませんでした。

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瓦礫は裏の通りを塞ぎ、しかし、ギリギリのところで向かいのお宅の塀にも当たらず、一号蔵の隣にほとんど隙間を空けず建っている隣のお宅の倉庫にも触れていなかったことだけ、ホッとしました。

どうしよう、という言葉しか出てきませんでした。

仕込んだばかりのもろみはどうなったのか、…それより、この先、どうやって仕込みをしていけばいいのか。
百寿は?濃醇は?
あの大事な自慢の醤油たちをこの先、誰かに食べてもらえなくなってしまうんだろうか。
蔵には沢山の酵母たちが棲んでいて、彼らのお陰であの醤油たちが出来るのに、同じ味を出していけるんだろうか。
150年もの歴史も、ついにこれまでになってしまうのか。


「これで諦めてたまるか。」

涙が止まらない私の隣で、蔵の娘であるKちゃんが、静かに強く呟きました。
ハッとしました。
この状況で諦めないのか。

この一言で、私も決めました。
何が出来るわけではないかも知れないけど、手伝おう。
この状況を前に、不安に押し流されそうなほんの弱い決意であったけど。
醤油がもしもダメになっても、石孫には自慢の味噌がある。
そうだ、諦めなくてもいいんだ。
そうやって、折れそうな心をどうにかして奮い立たせようとしました。


この時、太平洋側で何が起きていたのか、停電で情報が断たれた私たちには何もわかりませんでした。



-つづく-

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